化粧する婦人
作品情報
ストーリー
1660年ごろ、カスパル・ネッチェルは徒弟修業を終えようとしていた。この絵は、彼が独立して初めて手がけた作品と考えられている。描かれているのは化粧のひとときを過ごす若い女性で、オランダの上流層が好んだ光沢のある繻子をまとっている。長いあいだ、これを駆け出しの画家が描いたとは誰も信じなかった。作品はネッチェルの師であった年長の巨匠ヘラルト・テル・ボルフの手になるものとされ、右下にはその考えを裏づけるようにテル・ボルフのモノグラムまで書き加えられた。この署名は今日、のちの時代の贋作とみなされている。絵をネッチェルに帰属させ直したのは、まず研究者ストゥルラ・グドラウグソンだった。専門家たちもこれに同意し、才能ある弟子が高名な師のもとから抜け出しながら、なお師とほとんど変わらぬ筆づかいで描いていた瞬間として、この絵を読み解いている。その錯覚を支えていたのは布の描写であり、絹と繻子の上をゆっくりと丹念に走る光沢は、ネッチェルが生涯をかけて裕福な依頼主のために磨き上げていくものだった。画面の下の隅には、いまもその偽りのモノグラムが見つかる。画家自身の名を幾世代ものあいだ絵から遠ざけた、小さな偽造である。




