
音声ガイド
ストーリー
メトロポリタン美術館に足を踏み入れれば、古代世界、中世ヨーロッパ、皇帝の中国、そして現代のニューヨークを、ひと午後で横断できる。ある翼には、エジプト神殿がまるごとある。デンドゥール神殿だ。1960年代にエジプトから贈られ、セントラルパークに面したガラスの壁の奥に、石を一つずつ積み直された。その先には、ヨーロッパ絵画のギャラリー、武具の広間、歴史的な衣装のコレクション、取り壊されたウォール街の銀行の大理石の正面を中心に据えたアメリカン・ウィングが続く。メトロポリタンは世界のすべてを収めるべく構想され、いまや200万点近くを抱える。
それをゼロから築かねばならなかった。1870年にアメリカ人の一団がこの美術館を設立したとき、若きアメリカ合衆国には、ルーヴルやプラドが受け継いだような王室や皇室の宝の蓄えがなかった。弁護士ジョン・ジェイをはじめとする創立者たちは、それを何も持たぬ国のために、人類の美術の百科事典を組み上げようとした。最初の購入品はローマの石棺一つで、翌年には174点のヨーロッパ絵画の一括購入が、一夜にして絵画ギャラリーをもたらした。
市はセントラルパーク内の土地を、ひとつの条件で与えた。扉を民衆に開いたままにすること。今日の来館者がのぼる、柱の並ぶ五番街側の正面は、リチャード・モリス・ハントが設計し、1902年に完成した。その背後には、1880年の当初のれんが造りの建物がいまも残る。のちの翼の内側に隠れ、今ではギャラリーの内側からしか見えない。







